プログレッシブ・ロック、カンタベリー系の音楽について

プログレあるいはカンタベリー

今年(2013年)の1〜3月に放映されていた『たまこまーけっと』の劇中に使われていたプログレッシブ・ロック風の楽曲について以前にエントリ*1を書きましたが、それに関連して今年になってからプログレッシブ・ロック、特にカンタベリー系と言われる音楽に興味を覚えて(Twitterフォロー先の方からも情報をいただいて)いろいろと古いアルバムを中心に買ってみました。今回は、今年になって出会ったプログレ系の音楽について自分の感想や印象を書いてみようと思います。

Soft Machine

1960年代末から80年代初頭にかけて活動した、カンタベリー系の中では最重要のバンドです(これはウィキペディア記述の受け売り)。

3(紙ジャケット仕様)

3(紙ジャケット仕様)

以前のエントリでも少し触れましたが、3枚目のアルバム”Third”はいろんな意味ですごい作品だなあと、実際にアルバムを通して聞いてみて感じました。
1曲目の”Facelift”は不可思議な和音に続いて「ごごごごー!ぎょいーん!ぴー!」と何か機械の壊れたような音で幕を開けますが、これはオルガンの音らしいです。このバンドには基本的にギタリストがいないのですが、その代わりにキーボード担当のマイク・ラトリッジが歪んだサウンドのオルガンをまるでエレキギターのソロのように弾きまくります(曲によってはヒュー・ホッパーもファズをかけて歪ませた歯ぎしりのようなインパクトのあるベースを聞かせてくれます)。
前に「比較的ゆったりした」と形容していましたが、まあそういう曲もあるものの、演奏は総じてけたたましく、曲調は頻繁に変化を見せ、非常にスリリングな印象です。
”Third”では 1曲が20分を超える長いものもあり、ラトリッジのほか管楽器プレイヤーによる即興パートもふんだんに盛り込まれているのでジャズ的と言えるでしょう。しかし、”Facelift”においては曲の中で複数のモチーフ(ロックでいうリフレイン?)を少しずつ変えながら使いまわしているところもあり、そのあたりはクラシック曲でいう「主題」の変奏のようにも感じられます。

当時のライブ映像での"Facelift"(ブログへの埋め込みが無効化されたので、上記リンクで閲覧願います)。前奏部分もさることながら、各プレイヤーの紡ぎ出すフレーズが第一主題として実を結ぶまでの長いこと長いこと。客席ではヘッドバンギングをしたり恍惚の表情で聞き入っている若い人も見えます。
Soft Machineは、アルバムごとにバンドメンバーが入れ替わるため、それにつれて曲のテイストも変わっていったようです。”Third”に続く”Fourth”と”Fifth"ではロバート・ワイアットの歌う曲がなくなってジャズの色が濃くなり、”Sixth”以降はジャズというかフュージョン寄りのサウンドに変化、さらにギタリストのアラン・ホールズワースが参加した”Bundles”では完全にフュージョンの音色、”Third”時代に在籍したメンバーはマイク・ラトリッジしか残っていないこともあって、9曲目の”The Man Who Waved at Trains”などを除けば、とても同じバンドとは思えない変化ぶりですね。
1枚目と2枚目は買ってからあまり聞いていないのですが、1枚目の"So boot if at all”は後にカヒミ・カリィの”Good Morning World”に借用されていることを知りました。
ファーストから”Bundles”までSoft Machineのアルバムを揃えてみましたが、ぼくにとっては、第一印象の強さから”Third”が一番しっくりきました。BBCでのセッションを収録した2枚組の”The Peel Sessions”も好印象でした(現在は中古扱いのようです)。

Caravan

Soft Machineと同じくWild Flowersというバンドの在籍メンバーが元になったバンドですが、叙情的と言いますか、何と言いますか、サウンドから受ける印象はだいぶ違うと思います。
ぼくが気に入ったのは2枚目”If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You"ですね。

If I Could Do It All Over Again I'd Do It All Over

If I Could Do It All Over Again I'd Do It All Over

とくに7曲目(7トラック目と言うべきか?)の"Can't Be Long Now / Francoise / For Richard / Warlock”に惹かれました。14分の大作で、最初はギター伴奏とボーカルの静かで物憂げなパートで始まるのですが、途中3分40秒あたりからオルガンが「がっ、がっ、ががーっ!」と鋭いリフで斬りこんでくると一気にロックなテイストへと変化します。オルガンリフの前触れの如きドラムロールが聞こえてくると「おお、来たか!」と声を上げたくなるほどゾクゾクしますね。
2〜3枚目のアルバムでは、 ロックっぽい雰囲気はあってもギターがあまり目立たないのが特徴的です。ギター担当のパイ・ヘイスティングスがコードストロークなどのバッキングに徹しているせいでしょうけれど、4枚目からフィル・ミラーのリードギターが加わるとまた色合いが少し変わってきます。
3枚目の”In the Land of Gray and Pink”もいいですね。
In the Land of Grey and Pink

In the Land of Grey and Pink

いや、初めて聞いたときは何だかモヤッとした感じであんまりインパクトがなかったのですが、何度か聞いているうちにだんだん馴染んできました。このアルバムでは意外とベースの存在感があって、リチャード・シンクレアの骨太かつグルーヴ感のあるベースラインが心地よいので20分を超える終盤の”Nine Feet Underground”も飽きずに聞くことができるんだと思います。

Camel

このバンドも1970年代を中心に活動していました、というか今でも活動していますが、オリジナルメンバーはギタリストのアンドリュー・ラティマーしか残っておらず、80年代以降はバンドというより彼のソロ・プロジェクトに近い活動形態かもしれません。
初めに聞いたのが3枚目、全曲インストゥルメンタルの"The Snow Goose”。フルートのフレーズが美しい”Rhayader”に惹かれました。

Snow Goose (w/ bonus track)

Snow Goose (w/ bonus track)

4枚目の”Moonmadness”もいいですね。
Moonmadness

Moonmadness

Camelは、曲調の変化や変拍子のリズムパターン(さりげなく8分の7拍子が混じっていたりします)などプログレ的な特徴を備えているものの、曲の随所にキャッチーなメロディが置かれていて、全体として聞きやすいポップさがあると思います。
雨のシルエット+7(紙ジャケット仕様)

雨のシルエット+7(紙ジャケット仕様)

A Live Record (w/ bonus track)

A Live Record (w/ bonus track)

5枚目の”Rain Dances"ではメル・コリンズ(サックス、フルートなど、元King Crimson)とリチャード・シンクレア(元Caravan)が参加して、ポップさと共にフュージョンテイストが出てきています。彼らが加入してからのライブを収めた”A Live Record”では"Never Let Go"などの古い曲も演奏していますが、新メンバーの味わいも付加されているのでなかなかこれはこれで良いと思います。

上記映像は”A Live Record”と別の演奏ですが、“Rhayader"ではメル・コリンズもフルートで参加、ピーター・バーデンスのキーボードソロではバックでタンバリンも担当しています(楽しそうに叩いているのが微笑ましいです)。

”Moonmadness”収録の”Lunar Sea”では、曲後半でギターとサックスの掛け合い演奏が披露されています。
また、最近になって"The Snow Goose”のセルフリメイク盤もリリースされていますね*2

Hatfield and the North

ザ・ロッターズ・クラブ(紙ジャケット仕様)

ザ・ロッターズ・クラブ(紙ジャケット仕様)

2枚目のアルバム"The Rotter's Club"しか聞けていませんが、このバンドにもリチャード・シンクレアがベースとボーカルで参加しています。また、フィル・ミラーのギターが目立っていてフュージョン色の濃い作品です。

National Health

Of Queues & Cures

Of Queues & Cures

これも2枚目の"Of Queues And Cures"しか聞いていませんが、参加メンバーでは、上に書いた"The Rotter's Club"とギター、ドラム、キーボード、フルートの各プレイヤーが重複している(アルバムのリリース時期はずれていますが)ので、やはりフュージョンっぽい印象でした。
若干現代音楽的な不協和音もあってとっつきにくい部分もありますが、5曲目”Binoculars”は10分を超える長いナンバーでありながら、緩急の入り混じった曲変化があって楽しめます。この曲も途中のフルートがいい味を出していますね。

McDonald and Giles

King Crimsonを脱退したイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズによるユニット。アルバムは同名タイトルのものが1枚出ているのみですが、これがまた素敵な作品でした。

Mcdonald & Giles [HDCD]

Mcdonald & Giles [HDCD]

お気に入りを挙げるとすれば、冒頭の”Suite In C"でしょうか。このナンバーも曲調の変化が楽しめます(こんなことばかり書いてますが)。中間部のテンポアップする箇所が、どことなくあの”21st Century Schizoid Man”を彷彿させるところでもありますが、全体的にはアヴァンギャルドな印象ではなく穏やかで、最後はドゥーワップのような雰囲気で幕引きとなります。
アルバムを通して歪んだエレキギターの音色が聞こえてこないのも要因のひとつですが、他の曲もクリムゾンの激しさや緊張感とは違ってゆったりとしています。個人的には"I Talk To The Wind”的なものを感じました。まあ、クリムゾンも嫌いじゃないですが、緊張感や重苦しさを抜きにして、曲調変化の面白さやアンサンブルの妙という部分でのプログレ的美味しさを求めるとすれば、このアルバムがほぼ目的に適ったシロモノではなかろうか、そんな風にも思えます。

21st Century Schizoid Bandの演奏から、”Tomorrow’s People”。マイケル・ジャイルズの弟・ピーターもベースで参加しています。曲の中盤ではイアン・マクドナルドとメル・コリンズによるフルートの掛け合いが出てきます。

その他雑感

たまこまーけっと』関係だと、"The return of the giant hogweed”が収録されている"Nursery Cryme”など、ピーター・ガブリエル在籍時のGenesisもアルバムを3枚ばかり聞いてみましたが、個人的にはちょっと合わないかなあ。いや、曲構成はとても美しいのですが、どこか近寄りがたいものを感じるというか。
その一方で、ELPの”Brain Salad Surgery”などは最近になって意外とかっこよく感じたりするので(大学生の頃に初めて聞いた時は全然受け付けませんでした)、自分の中でもプログレッシブ・ロックという音楽ジャンルに何を求めているのか、よく分からない部分もあります。
自分はプログレに何を求めるのか・・・強いて言えば、一般受けするポップスやロックにない「サムシング・エルス」というより他にないのですが、そうだとするのなら、求める先はプログレに限定する必要は全くないので、クラシックでも民族音楽でもエレクトロニカでも何でもよいというのも事実であります。
とはいえ、プログレあるいはカンタベリー系というジャンルの中に何かしら面白いものは確かにあるという手応えを感じたのが今年の収穫でありました。他にも書きたい音楽のことがありましたがそれはまた別の機会に。来年以降ももう少しこの辺りを個人的に散策してみようかと思っています。

追記(2013/12/31)

Soft MachineとCaravanとでは「サウンドから受ける印象はだいぶ違う」と書きましたが、全くつながりがないのかと言えば決してそうではないことをご指摘いただきましたので、加筆しておきます。

@la_banane_92 興味深く拝読しました。少し気になったのですが、Caravanのアルバム"For Girls Who Grow Plump In The Night"は聴かれましたか?(続)
http://twitter.com/los_endos_/status/417660329326161920

@la_banane_92 と言いますのも7曲目の組曲"Backwards"を聴けば、Soft Machineの3rd"Slightly All The Time"の後半部との思わぬ接点に気付かされ、次の瞬間には大きな感動を味わえるはずだからです。既にご存知だったらすみませんw
http://twitter.com/los_endos_/status/417660589360439296
@la_banane_92 あ、さっきのtweetと後先逆になりましたね、スミマセンw 浮遊感のあるSoft Machineのあの曲が、Caravanのバージョンではオーケストラを使った雄大なスケールに仕上がっていて、何度聴いても胸に迫るものがありますねぇ…。
http://twitter.com/los_endos_/status/417682315460898816

Soft Machine"Third"収録の"Slightly All The Time"および、Caravan"For Girls Who Grow Plump In The Night”収録の7曲目(タイトルが長いので省略します)に共通する"Backwards"というパートについては、"Third"のライナーノーツにもしっかり言及されていました。

Of the entire studio based recordings, Mike Ratledge's "Slightly All the Time" comprised parts of Hugh Hopper's "Noisette" and featured the playing of Jimmy Hastings (elder brother of Caravan's Pye Hastings) on flute and bass clarinet. The composition finished with marvellous "Backwards" movement, a melody later utilised to great effect in 1973 by Caravan as part of their "L'Auberge du Sanglier" suite on the album "For Girls Who Grow Plump in the Night".
Soft Machine"Third"の英文ライナーノーツより引用

For Girls Who Grow Plump in Night

For Girls Who Grow Plump in Night