『たまこまーけっと』1〜3話の感想

とりあえず3話まで見た時点での感想を書いていきます。

けいおんシリーズよりもゆるい雰囲気

ぼくは、テレビでの1話放映前に京都文化博物館で先行上映会の鑑賞をしたのですが、その際の印象は『けいおん!』シリーズよりもさらにゆるい雰囲気だなあというものでした。
1話に描かれた季節は冬休みから大晦日。けいおん(1期および2期)のように学校での学期が始まる4月ではありません。主人公を含めた生徒たちが学校における新しい環境の中で「さあ、これから何をしようか?」とそわそわ動き始めるわけではないのです。もっとも、主人公・北白川たまこの誕生日が大晦日ということで、商店街の人々が誕生日プレゼントの件で意思を一致させる流れはあるものの、やっぱりテイストは違うなあと感じました。
また、けいおん1期のこと前半においては、部活動の点で一致させる傾向が随所に見られました(軽音部を存続させるために部員を確保しなければならない、試験で赤点をとった仲間のせいで部活が活動停止にされるとマズイ、顧問の先生をつけなければならない、学園祭に向けてスキルアップを図らなければならない、などなど)。ゆるやかな流れの話ではありますが、目の前の課題に向かってメインの女子高生4人が一緒に進んでいく方向性はあったと思います。その点で比較すると『たまこまーけっと』ではメインキャラクター3人の仲良しっぷりはよく見えてくるけれど、だいぶ趣を異にしているんですよね。それでキーとなるキャラクターはメインの女子3人ではなく「鳥」だということ。

鳥とその立ち位置変化

たまこの住んでいる商店街に転がり込んできた鳥(デラ・モチマッヅイ、以下デラ)は作品の中で最もコミカルな役回り、視聴者からすればややウザキャラでもあります。
しかし、話数が進むにつれて商店街の中ではデラに好印象を持つ人たちが増えていく点をはじめ、作品の中では少しずつキャラクターの印象を変えているところに注目したいですね。

  • 1〜2話では、たまこをはじめ周囲の女の子が自分に惚れていると勘違いして偉そうな態度をとっていましたが、3話では初対面の朝霧さんにメロメロ、自分のほうから近寄ってアプローチをかけていますし「恋に落ちたぞ!」との独白まであります。
  • また、2話ではみどりをレコード店に誘い、3話では朝霧さんを商店街に迎え入れる役割を果たしていますし、成り行きとはいえ受け身のスタンスから次第に主体的な行動をとるスタンスへとシフトしているように見えます。

見た目の面白さとしては、デラと女子高生の位置関係(高さ的な意味で)ですね。

  • 1話:登場当初は身のこなしが軽くて、たまこの頭へ乗っかっていました。
  • 2話:おもちの食べ過ぎが災いしてみどりと連れ立っている場面では、彼女の頭近くを飛ぶ(顔が必死)。
  • 3話:肥満傾向は改善せず、春に入るとさらに飛翔能力がダウン。朝霧さんに抱きかかえられながら移動する始末。

デラの変化をこういった形で視覚的に見せていくところが面白かったです。

レコード店「星とピエロ」のマスター

毎回Bパートに登場するマスターさん、商店街メンバーの中では異彩を放つキャラクターですね。オープニングのカットではみんなと一緒に笑顔を見せているものの、2話における商店街の会合には顔を出していませんし、基本的にシャイで大勢の中に出て行くのは苦手な性格なのでしょう。もしかすると経営しているレコード店も趣味の延長、商売をしているという意識がほとんどない人かも知れません。
このマスターさんも、話数ごとに少しずつ変化を見せています。来店した女子高生たちとのやりとり(のようでただのモノローグっぽい)が見どころです。

  • 1話:コーヒーが苦いというたまこに牛乳パックを差し出し「コーヒーは苦い、でもそれは生きる苦さを味わいに変えるため」と声をかける(ように見える)。
  • 2話:みどりの気持ちを汲み取ったかのようなモノローグ(誰にも名前の付けられない気持ちがある)をする。
  • 3話:前回と同様に、来店した朝霧さんの気持ちを察しているようではあるが「言葉がすべて音楽」云々のつぶやきは、たまこ&朝霧さんの会話内容からややずれている。

デラとは対照的に、彼は来店客とのコミュニケーションがとりにくくなっているように見えます。この調子だとマスターのセリフが段々と浮いたものに聞こえてきそうで心配なのですが、大丈夫でしょうか。

たまこについて

主人公のたまこについては、基本的に安心できるキャラというか、この子なら物語がこの先どう転がっていっても大丈夫だろうと思いながら見ています。
人懐っこくて誰とでも仲良くなれそうな性格は平沢唯っぽくもありますが、日々家業を手伝っているためかしっかり者の印象を受けます(早起きもできますしね)。母親がいないという設定が効いているのでしょう、本人は学校に通いながらも仕事をしているという意識を常に持っていると思います(もっとも、父親からすれば「背伸び意識」にしか見えないのでしょうけれど)。
端的な例を挙げると2話のバレンタインエピソードですが、たまこはチョコを誰に渡そうかという発想よりも、店の商品をどうするか、商店街をどう盛り上げるかのほうに発想が向かってしまうんですよね。家庭内でかつての母親ポジションを担っているゆえなのか、はたまた恋愛面に疎いゆえなのか、まだよく判りませんが。

朝霧さんの変化

3話から本格的に登場した朝霧さんが見せる変化も興味深いものでした。
デラの立ち位置変化をなぞっている部分もあるのですが、道に迷っていた担任の先生をたまこの家に案内する役回りをするくだりや、たまこの家族に手料理をふるまうくだりなど、偶然のような成り行きがきっかけとなって、もともと受け身スタンスだったのが主体的な行動スタンスに変わっていく、それにつれて本人の意識も変わっていく、そういう流れがとても面白く感じられました。彼女は人見知りのきつい性格のようですが、いつの間にか人と接する役割をこなせている、視聴者からすれば「あ、できるじゃん!」と声をかけたくなるところもあり、いい流れの展開でした(もっとも「自分から意識して行動しなきゃダメだよ!」という部分も置いてあるのですが)。
けいおんキャラで言えば、眼鏡をかけた容姿やシャイな性格から宮本アキヨさんとの共通性も伺えましたが、レコード店で「すごくすごく楽しかったの!」と力をこめてたまこに語る場面は、声のトーンがいつもより上がっていることもあってムギちゃんのようでもありました。
もうひとつけいおん絡みで言うと、朝霧さんやデラが食べ物(おもち)でたまこの家に引き止められるのが、入部直前の唯や梓がお茶やケーキで部室に引き止められるくだりとよく似ていると思います。食べ物を介するつながりって意外と侮れないものですね。

1〜3話のベストショット

2話、レコード店から出てきたみどりがデラと連れ立って歩道を軽快に駆けていくシークエンス。

後ろ姿のショットから始まって、みどりの横顔に接近、そしてカメラを上方の空へとパンしていく流れがとても心地よく感じました。
その少し前、商店街で撮影するくだりでも、みどりの横顔からカメラアングルを上方のアーケードへと移行する趣向が見られました。みどりの行く先、具体的には分からないけど、何かいいことあるかも!と淡いけどポジティブな予感を抱くようなイメージを感じました。こういうセリフを使わないさりげない演出はとても好きです。

音楽

放映前のPVから流れていたピアノのちょっとボサノバ風な曲が可愛らしくて気に入っています。劇中でも少しアレンジを変えて使っているようで、けいおんシリーズでの”Have Some Tea?”的なポジションかなと思っています。今のところ曲名などは分からないのですが、いずれはサウンドトラックも発売してほしいです(「星とピエロ」マスター監修などの名義で)。
曲目といえば、毎回エンディングに劇中曲として表示される「Excerpts from “The Return Of The Drowning Witch” (Part1-Part9)」 Hogweedというのが少し気になっています。直訳すると「『溺れる魔女の帰還』(パート1〜パート9)からの抜粋」という変なタイトルですが、

  • 曲名から:Frank Zappa "Drowning Witch"
  • 曲名およびアーティスト名から:Genesis "The return of the giant hogweed"
  • Part云々の表記から:King Crimson "Larks' Tongue In Aspic"のタイトルがついた一連の楽曲

単語単位で検索してみると、上記のような実在の曲名がヒットしたりします。関連する動画を確認してみるとどれもプログレッシブ・ロックのカテゴリーに入るであろう、かなりアクの強い楽曲ばかりで、とても本作品に流れるゆるやかなテイストとは相容れないのですが、曲のネーミングはスタッフの遊び心から生まれたものでしょうか。
また、前述キャプチャーのみどりが駆けていくシーン、バックに流れるフランス語の曲(Marilou "Un Lieu de Rencontre")も気になって検索をかけて見たのですが全く見つからず、どうやら既存の曲ではないようです(レコードジャケットのデザインがフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」と似ているとTwitterのフォロワーさんから指摘を受けました)。それ以外にも作品の音楽スタッフに関してはいろいろ興味深い経歴が見られます。以下のブログで詳しく言及されていますのでどうぞご参考に。

最後に

3話まで見たところで、メインキャラを中心に人となりが少しずつ見えてきて、作品の傾向もおぼろげながらつかめそうな気がしています。
作品傾向としては、それぞれの人物を特定の印象で固定させかねない言及や、過去の掘り下げは(何となくの予想ですが)やらないだろうな・・・と思っています。たまこの母親不在やみどりの恋愛感情など、視聴者としては気になる部分がちらほらとあるけどあえて具体的な言及を避けているようなので。
今後の展開については、山田尚子監督からのちょっとしたネタバレが出ていますし*1、話の先をあれこれと予想するのもいいけど、とりあえずは話数ごとにキャラクターの可愛さや作品世界のゆるやかな心地よさが味わえたらそれでいいかな、事前にあんまり多くを期待するより、すべてのエピソードを鑑賞した後になって「ああ、作品にはそういうテーマ性があったのか」と気付かされる楽しみってのもあるかなと、そんな気分もありますね。