プログレッシブ・ロック、カンタベリー系の音楽について
プログレあるいはカンタベリー
今年(2013年)の1〜3月に放映されていた『たまこまーけっと』の劇中に使われていたプログレッシブ・ロック風の楽曲について以前にエントリ*1を書きましたが、それに関連して今年になってからプログレッシブ・ロック、特にカンタベリー系と言われる音楽に興味を覚えて(Twitterフォロー先の方からも情報をいただいて)いろいろと古いアルバムを中心に買ってみました。今回は、今年になって出会ったプログレ系の音楽について自分の感想や印象を書いてみようと思います。
Soft Machine
1960年代末から80年代初頭にかけて活動した、カンタベリー系の中では最重要のバンドです(これはウィキペディア記述の受け売り)。
- アーティスト: ソフト・マシーン
- 出版社/メーカー: SMJ
- 発売日: 2013/06/26
- メディア: CD
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1曲目の”Facelift”は不可思議な和音に続いて「ごごごごー!ぎょいーん!ぴー!」と何か機械の壊れたような音で幕を開けますが、これはオルガンの音らしいです。このバンドには基本的にギタリストがいないのですが、その代わりにキーボード担当のマイク・ラトリッジが歪んだサウンドのオルガンをまるでエレキギターのソロのように弾きまくります(曲によってはヒュー・ホッパーもファズをかけて歪ませた歯ぎしりのようなインパクトのあるベースを聞かせてくれます)。
前に「比較的ゆったりした」と形容していましたが、まあそういう曲もあるものの、演奏は総じてけたたましく、曲調は頻繁に変化を見せ、非常にスリリングな印象です。
”Third”では 1曲が20分を超える長いものもあり、ラトリッジのほか管楽器プレイヤーによる即興パートもふんだんに盛り込まれているのでジャズ的と言えるでしょう。しかし、”Facelift”においては曲の中で複数のモチーフ(ロックでいうリフレイン?)を少しずつ変えながら使いまわしているところもあり、そのあたりはクラシック曲でいう「主題」の変奏のようにも感じられます。
当時のライブ映像での"Facelift"(ブログへの埋め込みが無効化されたので、上記リンクで閲覧願います)。前奏部分もさることながら、各プレイヤーの紡ぎ出すフレーズが第一主題として実を結ぶまでの長いこと長いこと。客席ではヘッドバンギングをしたり恍惚の表情で聞き入っている若い人も見えます。
Soft Machineは、アルバムごとにバンドメンバーが入れ替わるため、それにつれて曲のテイストも変わっていったようです。”Third”に続く”Fourth”と”Fifth"ではロバート・ワイアットの歌う曲がなくなってジャズの色が濃くなり、”Sixth”以降はジャズというかフュージョン寄りのサウンドに変化、さらにギタリストのアラン・ホールズワースが参加した”Bundles”では完全にフュージョンの音色、”Third”時代に在籍したメンバーはマイク・ラトリッジしか残っていないこともあって、9曲目の”The Man Who Waved at Trains”などを除けば、とても同じバンドとは思えない変化ぶりですね。
1枚目と2枚目は買ってからあまり聞いていないのですが、1枚目の"So boot if at all”は後にカヒミ・カリィの”Good Morning World”に借用されていることを知りました。
ファーストから”Bundles”までSoft Machineのアルバムを揃えてみましたが、ぼくにとっては、第一印象の強さから”Third”が一番しっくりきました。BBCでのセッションを収録した2枚組の”The Peel Sessions”も好印象でした(現在は中古扱いのようです)。
Caravan
Soft Machineと同じくWild Flowersというバンドの在籍メンバーが元になったバンドですが、叙情的と言いますか、何と言いますか、サウンドから受ける印象はだいぶ違うと思います。
ぼくが気に入ったのは2枚目”If I Could Do It All Over Again, I'd Do It All Over You"ですね。
If I Could Do It All Over Again I'd Do It All Over
- アーティスト: Caravan
- 出版社/メーカー: Polygram UK
- 発売日: 2001/04/17
- メディア: CD
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2〜3枚目のアルバムでは、 ロックっぽい雰囲気はあってもギターがあまり目立たないのが特徴的です。ギター担当のパイ・ヘイスティングスがコードストロークなどのバッキングに徹しているせいでしょうけれど、4枚目からフィル・ミラーのリードギターが加わるとまた色合いが少し変わってきます。
3枚目の”In the Land of Gray and Pink”もいいですね。
- アーティスト: Caravan
- 出版社/メーカー: Polygram UK
- 発売日: 2005/12/22
- メディア: CD
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Camel
このバンドも1970年代を中心に活動していました、というか今でも活動していますが、オリジナルメンバーはギタリストのアンドリュー・ラティマーしか残っておらず、80年代以降はバンドというより彼のソロ・プロジェクトに近い活動形態かもしれません。
初めに聞いたのが3枚目、全曲インストゥルメンタルの"The Snow Goose”。フルートのフレーズが美しい”Rhayader”に惹かれました。
- アーティスト: Camel
- 出版社/メーカー: Polygram UK
- 発売日: 2002/05/30
- メディア: CD
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- アーティスト: キャメル
- 出版社/メーカー: Universal Music LLC
- 発売日: 2002/06/03
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- アーティスト: キャメル
- 出版社/メーカー: USMジャパン
- 発売日: 2009/05/27
- メディア: CD
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A Live Record (w/ bonus track)
- アーティスト: Camel
- 出版社/メーカー: Universal I.S.
- 発売日: 2002/05/30
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上記映像は”A Live Record”と別の演奏ですが、“Rhayader"ではメル・コリンズもフルートで参加、ピーター・バーデンスのキーボードソロではバックでタンバリンも担当しています(楽しそうに叩いているのが微笑ましいです)。
”Moonmadness”収録の”Lunar Sea”では、曲後半でギターとサックスの掛け合い演奏が披露されています。
また、最近になって"The Snow Goose”のセルフリメイク盤もリリースされていますね*2。
Hatfield and the North
- アーティスト: ハットフィールド&ザ・ノース
- 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
- 発売日: 2011/01/26
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National Health
- アーティスト: National Health
- 出版社/メーカー: Spalax
- 発売日: 2009/06/23
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若干現代音楽的な不協和音もあってとっつきにくい部分もありますが、5曲目”Binoculars”は10分を超える長いナンバーでありながら、緩急の入り混じった曲変化があって楽しめます。この曲も途中のフルートがいい味を出していますね。
McDonald and Giles
King Crimsonを脱退したイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズによるユニット。アルバムは同名タイトルのものが1枚出ているのみですが、これがまた素敵な作品でした。
- アーティスト: McDonald & Giles
- 出版社/メーカー: EMI Europe Generic
- 発売日: 2002/08/15
- メディア: CD
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アルバムを通して歪んだエレキギターの音色が聞こえてこないのも要因のひとつですが、他の曲もクリムゾンの激しさや緊張感とは違ってゆったりとしています。個人的には"I Talk To The Wind”的なものを感じました。まあ、クリムゾンも嫌いじゃないですが、緊張感や重苦しさを抜きにして、曲調変化の面白さやアンサンブルの妙という部分でのプログレ的美味しさを求めるとすれば、このアルバムがほぼ目的に適ったシロモノではなかろうか、そんな風にも思えます。
21st Century Schizoid Bandの演奏から、”Tomorrow’s People”。マイケル・ジャイルズの弟・ピーターもベースで参加しています。曲の中盤ではイアン・マクドナルドとメル・コリンズによるフルートの掛け合いが出てきます。
その他雑感
『たまこまーけっと』関係だと、"The return of the giant hogweed”が収録されている"Nursery Cryme”など、ピーター・ガブリエル在籍時のGenesisもアルバムを3枚ばかり聞いてみましたが、個人的にはちょっと合わないかなあ。いや、曲構成はとても美しいのですが、どこか近寄りがたいものを感じるというか。
その一方で、ELPの”Brain Salad Surgery”などは最近になって意外とかっこよく感じたりするので(大学生の頃に初めて聞いた時は全然受け付けませんでした)、自分の中でもプログレッシブ・ロックという音楽ジャンルに何を求めているのか、よく分からない部分もあります。
自分はプログレに何を求めるのか・・・強いて言えば、一般受けするポップスやロックにない「サムシング・エルス」というより他にないのですが、そうだとするのなら、求める先はプログレに限定する必要は全くないので、クラシックでも民族音楽でもエレクトロニカでも何でもよいというのも事実であります。
とはいえ、プログレあるいはカンタベリー系というジャンルの中に何かしら面白いものは確かにあるという手応えを感じたのが今年の収穫でありました。他にも書きたい音楽のことがありましたがそれはまた別の機会に。来年以降ももう少しこの辺りを個人的に散策してみようかと思っています。
追記(2013/12/31)
Soft MachineとCaravanとでは「サウンドから受ける印象はだいぶ違う」と書きましたが、全くつながりがないのかと言えば決してそうではないことをご指摘いただきましたので、加筆しておきます。
@la_banane_92 興味深く拝読しました。少し気になったのですが、Caravanのアルバム"For Girls Who Grow Plump In The Night"は聴かれましたか?(続)
http://twitter.com/los_endos_/status/417660329326161920@la_banane_92 と言いますのも7曲目の組曲"Backwards"を聴けば、Soft Machineの3rd"Slightly All The Time"の後半部との思わぬ接点に気付かされ、次の瞬間には大きな感動を味わえるはずだからです。既にご存知だったらすみませんw
http://twitter.com/los_endos_/status/417660589360439296
@la_banane_92 あ、さっきのtweetと後先逆になりましたね、スミマセンw 浮遊感のあるSoft Machineのあの曲が、Caravanのバージョンではオーケストラを使った雄大なスケールに仕上がっていて、何度聴いても胸に迫るものがありますねぇ…。
http://twitter.com/los_endos_/status/417682315460898816
Soft Machine"Third"収録の"Slightly All The Time"および、Caravan"For Girls Who Grow Plump In The Night”収録の7曲目(タイトルが長いので省略します)に共通する"Backwards"というパートについては、"Third"のライナーノーツにもしっかり言及されていました。
Of the entire studio based recordings, Mike Ratledge's "Slightly All the Time" comprised parts of Hugh Hopper's "Noisette" and featured the playing of Jimmy Hastings (elder brother of Caravan's Pye Hastings) on flute and bass clarinet. The composition finished with marvellous "Backwards" movement, a melody later utilised to great effect in 1973 by Caravan as part of their "L'Auberge du Sanglier" suite on the album "For Girls Who Grow Plump in the Night".
Soft Machine"Third"の英文ライナーノーツより引用
For Girls Who Grow Plump in Night
- アーティスト: Caravan
- 出版社/メーカー: Polygram UK
- 発売日: 2005/12/22
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