『たまこまーけっと』10〜12話の感想

放送終了から少し日が経ってしまいましたが、3話ごとのレビューを今回でしめようと思います。
一応「10〜12話」としていますが、それ以前のエピソードや描写に対する言及もあります(とくに最終話である12話では、過去エピソードとのつながりを感じさせる演出が多かったので)。

みどりについて

10話がシリーズ3回目となるみどり回でした。前の9話ではもち蔵とたまこの関係性が目立っていたので、その次に「恋敵」を出すのはごく自然な流れですね。
それはともかく、文化祭での振り付けを任されたみどりが誰にも相談できずに一人で抱えて悩んでしまう展開、これは2話で提示された「みどりからたまこへの想い」が誰にも明らかにされない点を別のバリエーションで見せているようでした。
また、10話は5話からの流れで見ることができます。5話の会話を振り返ってみましょう。

みどり「ねえ、たまこは大路のことどう思ってるの」
たまこ「どうって・・・幼馴染だよ。というか餅屋仲間」
みどり「そうだよね、じゃあわたしのことは?」
たまこ「みどりちゃん?みどりちゃんは・・・大好きだよ?」
第5話の臨海合宿・遠泳の場面より

5話に見られる「大好きだよ」がたまこからみどりへの(あくまで友達としての)親しみ、それ以上のニュアンスを持たないということ。10話はその延長線上にあると思います。たまこがみどりを抱きしめるのも5話と同じ文脈にあって、たとえ空間的な距離が縮まってもそれはそれ、ふたりの関係性が一線を越えることはないんだなあ、と思いながら見てみるとなかなか感慨深いものがありました。

みどりはメインキャラの中で感情の発露が分かりやすい子なので、話の中心に据えられると映えますね。
また、11話以降は(10話のラストでチョイが口火を切ったことをきっかけとして)お妃候補の話題が持ちきりで、それに対してみどりは人一倍焦りを見せていました。そして12話では、たまこが(商店街が静かになったことから)母の死をフラッシュバックしそうになったとき、みどりがたまこの元に駆け寄ろうとするのですが、デラに先を越されてしまいます。デラが身を挺してたまこの口を封じる描写は1話の反復ですが、それに加えてみどりの残念さも窺えました。
また、お妃問題の誤解が解けた後、みどりともち蔵が顔を見合わせて微笑む場面は5話の反復であり、たまこへのアプローチに関しては両者決着つかず。さらに言えば、12話ラストでもち蔵がたまこへの誕生日プレゼントとしてデラを贈ってしまうくだりは「デラに先を越される」という点で両者の相似性が見られるのも面白いところです。

青い鳥というモチーフについて

12話の後半、王子とともに母国へ戻るチョイが、別れ際にたまこに手渡したのが青い折り鶴でした。

この折り鶴が青色*1というのは、童話『青い鳥』からの発想と考えて間違いないでしょう。つまり「探していたものは、実は自分のすぐ近くにあった」という意味を提示する演出意図だと思います。
チョイが「探していたもの」は王子のお妃であり、それがたまこではないことがその前のくだりで判明しています。とすれば、チョイが「青い鳥」をたまこに差し出すことにはどういう意味があるのでしょうか。そして「自分のすぐ近くにあった」ものとは何でしょうか。
興味深い考察を見かけたので紹介します。

最後に、私にはチョイがお妃候補占いをすることに躊躇しているように見えました。また、チョイの首筋に何かあるかの様な描写もありましたが、結局それが何なのかは詳しく説明されることはありませんでした。その答えは、視聴者各自で想像してほしいということなのでしょうか?
『たまこまーけっと』最終話感想: 忙しなく暇つぶし


なるほど・・・言われてみると確かに(上は12話からのキャプチャー)。上記引用を手がかりに考察してみます。

チョイに関しては、9話以降に着ているパーカーのデザインにも注目したいです。
彼女の着ているパーカー、左の腰辺りに「青い鳥」をあしらったワンポイントが見えます。このワンポイントが「青い鳥」なのは、チョイが「すぐ近くにあるのに気付かないもの」を示唆しているのでしょうし(通常の姿勢では自分の視界に入ってこないので)、そこから類推すれば「チョイの首筋」をアップで見せるカットもまた、折り鶴やパーカーと同様の示唆を与える描写と言えるのではないでしょうか。
ここで勇み足で結論を言ってしまうと、これは「チョイが探していたのは王子だった、王子のお妃となるのは他でもないチョイである」ことの示唆ではないかと思うのですが、いかんせん首筋に「お妃の印」であるほくろがあるのかどうかには何ら言及していないので、鑑賞者サイドではっきりした確証を得ることはできませんでした(このように、多くを語らない、明確な答えをぼかした演出は『たまこまーけっと』の中でしばしば見られる要素ですね)。

探しものについて

見返していて気付いたのですが「青い鳥」のモチーフは折り鶴やパーカーだけでなく、1話の時点から登場しています。

初対面のたまこによってデラが花屋から放り出される場面です。
花屋の出入口ドアそばにある「鳥小屋」のようなもの、形状からして郵便受けだと思いますが、注意して見るとその屋根に青い鳥の乗っていることが判ります。つまり「青い鳥」は作品の最初から意図的に仕込まれていたモチーフというわけですね。これと同様の仕込みとしては「探しものはいつも、そばに隠れてるの」で始まるエンディング・テーマ曲『ねぐせ』が挙げられるでしょうか。
振り返ってみると『たまこまーけっと』は「探しもの」をめぐる物語でもありました。たまこにとっての「探しもの」は9話で解決し、チョイの「探しもの」は完全な解決とはならないものの、うさぎ山商店街には答えがないことが判ってひと区切りが付きました。
作品後半ではチョイのほうが目立ってしまいましたが、デラもまた「探しもの」を追い求めていました。デラにとっての「探しもの」は何だったのでしょうか。建前上は「王子のお妃」ですが、チョイとの関係がいささかギクシャクしているところを見ると*2、本音は別のところにあるような気もします。
さて、12話終盤で商店街を出て行くと宣言したデラが「鳥小屋」のある花屋に飛び込んでしまったのは、チューベローズの香りに誘われてのことでありますが、それだけでしょうか。1話の時点ですでに「彼の探しもの(=帰るべき場所)は、故郷ではなく商店街であった」ことが示唆されていた・・・と見ることも可能ではないでしょうか。いや「帰るべき場所」という表現でデラと商店街を結びつけるのはやや牽強附会かも知れませんが、鳥小屋といえば、かんなが以前こんなものをこしらえていたこと(8話、下記キャプチャー)を振り返ってみると何かしら宿命めいたものを感じるのであります*3

もっとも、12話でデラが飛び込んだのは「鳥小屋」そのものではありませんでしたが。

その他、気付いた点

  • 12話の商店街が静まる場面:6話の反復もしくはバリエーション。6話ではセミの抜け殻を見せるなど、さりげなく「死」を匂わせる演出もあり、商店街の静けさ(毎日がお祭りのような賑やかさなのに!)にたまこが敏感に反応する体質であることを示している。
  • 12話のかんな「一羽丸焼き、こんがりロースト、スパイスたっぷり、からっと唐揚げ」:8話「醤油、みりん、にんにく、生姜ひとかけら、一晩熟成」のバリエーション(そうか、かんなはあの時から食べることを考えていたのか・・・)。

好きな場面・描写


10話より。デラの踊りも良かったですが、史織さんの装いにも注目。
後ろにボタンのあるタイプのカーディガンでしょうか、キャミソール(?)の上にちょっとだけ背中が見えていて色っぽいですね。
そういえば、けいおん2期27話での梓も背中の露出が目立つ服装(あれは夏の装いですが)だったと記憶しています。衣服や着こなしによって女子の胸元を強調して見せる演出は他作品でよく見かけますが、それとは対照的なさりげない色気アピールは山田尚子さんの好みでしょうか。

12話より。舞台モデルは年末の賀茂大橋ですね。
この辺り、というか鴨川周辺では12月から1月にかけてユリカモメをよく見かけます。時折、何かの拍子に何十羽ものユリカモメが一斉にバタバタっと群れをなして飛び立ち、周囲を旋回するのを何度か見たことがあって、あの群れの中に丸々と太ったデラが混じっていたら面白いだろうなと思いました。
上記カットでは、ユリカモメ、デラ、うどん屋さん、自動車と、目立つモチーフをすべて白色でまとめて描いているのも面白いですね。

最後に

いろいろと細かい描写に注目して、それらのつながりを見ていくと面白い作品ですね。
自分は今のところ、まだこの作品のテーマ性や世界観などを述べるレベルには達していません。それよりも、ディテールへ注目することで思いもよらないつながりが感じられる、そういう楽しさのほうに関心が傾いています。放送自体は終わってしまいましたが、もう少しコミットして新しい発見をしてみる余地はあるかなと思っています。
思い返せば『映画けいおん!』においても、廊下に落ちた飴の包み紙(後輩が無意識に先輩の軌跡をなぞる)や、1台だけ赤い観覧車のゴンドラ(部活でただひとりの後輩である梓を示す)など、劇中モチーフにそっと意味合いを感じさせる演出を見かけました。これは制作スタッフの好みだったのでしょうけれど、個人的にも言葉(セリフ)で全てを語ってしまうのではなく、さりげなく気付きのきっかけを残しておく趣向はとても面白いと思うので、この『たまこまーけっと』もそういう面で楽しめました。
今回のエントリでは触れませんでしたが、音楽面でのこだわりも興味深いところがあるので、BD/DVDの特典となる劇中曲CDやサウンドトラック盤にも注目したいですね。

*1:青い折り鶴は9話にも出ています。ユズキ君の大福を食べようとしたデラにチョイが投げつけます。

*2:たとえば11話、チョイが怒るからたまこに対していやいや敬語をつかっている場面など。

*3:まあ、鳥小屋云々は措くとしても、たまこがデラの足をもって舞い降りるオープニングの描写も、今にして思えばデラが商店街という世界に引きこまれていく宿命をあらかじめ見せていたのかも知れませんね。