『たまこまーけっと』4〜6話の感想

とりあえず6話まで見た時点での感想を書いていきます。

伝統を受け継ぐ/役割を担う

4話におけるあんこの挙動が興味深いものでした。
もともと地元のお祭りに興味がなかったのだけれど、ふとしたきっかけであんこは年少の子供の着付けを手伝うことになり、かつて自分が母親に手伝ってもらったことを思い出してその時に聞いたアドバイス(目をつぶって頭のなかで10数えて)をそのまま使い回します。あんこは、気付かないうちに地元の伝統(やや大げさな表現ですが)を受け継いで下の世代にバトンを渡す役割を担うことになります。
このくだりは、『映画けいおん!』のラスト近くで平沢唯が「私たちも伝統を受け継いでいるんだ!」と気づく箇所を彷彿させます。どちらも、本人が意識した行動の結果ではなく、知らず知らずのうちにコミュニティ・サークルの中で何かしらの役割を担っていた、という共通性があります。こういうゆるやかな包容力は、山田尚子作品の持ち味でしょうね。
また、北白川家に居候中のデラもまた、お神輿の鳥の代役を担ったり(4話)、お化け屋敷の客寄せに一役買ったり(6話)、期せずして周囲の人々の役に立っています。この「期せずして」というのがポイントでしょうか。そもそもデラは人助けをするため商店街に逗まっているのではないし、住民たちも特に何かを期待しているわけではありません。しかし、結果として何かしら人々とのつながりが生まれている(でも作品としてはそれを強調しない)という流れが作品のコンセプトとしてあるのだと思います。

デラについて

さて、そのデラですが、この鳥に頼み事をしてもうまくいかないことが多いです。

3話:史織がたまこへの伝言を頼むが、断る
5話:もち蔵がたまこへの手紙を託すが、みどりに妨害される
6話:あんこが回覧板を託そうと思ったが、外出中

しかし、6話でかんながペンキの缶を託すくだりが一味違っていました。デラを動かすためにクラスメートの史織を「エサ」にしてしまうところがかんなの策士たるゆえん、彼女は首尾よくデラを操縦したようですが、デラ自身は(プライドが高いためか)人に使われることを快く思っていない模様ではあります。

たまこと商店街の人々

たまこは同世代の子たちと比べると商店街、家業へのコミット度合いが高く、かつての母親ポジションを担っているようにも見えますが、必ずしも大人世代と同じポジションに立っているわけでもないようです。
自分の生まれ育った商店街が好きなのは周囲の人々と同じですが、彼女にはそこに少しずつ新しい要素を盛り込みたい傾向があって、それがバレンタイン企画(2話)、自作のハッピーもち販売(4話)、お化け屋敷企画(6話)に現れています。
6話に見られる縁起の悪いものを忌み嫌う傾向、それは大人世代が共有する集団心理だと思いますが、たまこはそうした大人たちの集団心理から少し離れたところにいます。集団心理ゆえに日常の光景が怪奇現象に見えてしまう大人世代と、それを横から見ているたまこやクラスメイトたち子供世代の対比が面白かったです。
とはいえ、大人世代と子供世代は決して対立しているわけではなく、大人世代のダメな部分を子供世代が積極的にサポートしている風でもなく、それぞれの思いの交錯が結果として面白いものを生んでいるように見えました(かんなの計画と、そこから派生するリアクションが特徴的)。
さて、6話に出てきたお化け屋敷のキャラクター「キフネちゃん」は貴船神社の丑の刻参り*1がネタ元のようですね。納豆のように見えて実は「呪いの藁人形」というゆるキャラ。チラシやポスター、お化け屋敷入り口にもキフネちゃんのイラストをあしらっているのは、昨今の「ゆるキャラご当地キャラ)で町おこし」的な世相を反映しているようです。

恋愛関係の描写について

恋愛云々については制作スタッフが意図的してほのめかし程度にボカした描写を狙っているのではないかと思っています。5話でたまこたちの三角関係が見えてきましたが、今後誰と誰がくっついて・・・という展開はなさそうな雰囲気です。
5話では、みどりが警戒心むき出しでもち蔵をたまこから遠ざけようとしていますが、みどりともち蔵の口論が口論になってないというか、途中から「たまこに関する知識くらべ」になっていて、いや恋愛感情ってそういうもんじゃないだろうとツッコミを入れたくなるような、そこが面白かったんですけれど。あと、みどりの目つきが言葉以上にいろいろと語っているようでそこも見どころですね。それとラストのサムズアップ。

自分の前を通り過ぎるたまことかんな、それぞれがウィンクしながらもち蔵にサムズアップを示す姿にやや怪訝そうな顔つき(目の方向に注目、こうした顔つきは劇中に何度も出てきます)。しかし最後には自分もやってみる。もち蔵に対しての警戒心はなくなったとの意味合い、あるいはこんなしょぼい奴が恋敵になるはずもないとの安心感、あるいは親しみ、さてさて?
たまこが恋愛関係に疎いのは2話、4話で示されたとおりで、そこが変わらないとどうにもこうにも進展しないでしょうし、みどりの言動をもち蔵がどこまで理解しているのかもネックですね。デラの言う「同じ香りがする」者同士がくっつく線はちょっと考えにくいし、仮に「悔しかったら力づくでもたまこを奪い取ってみろ!」と挑発してくるキャラが登場すれば・・・いやいやその線もなさそう*2

かんなちゃん

今までマイペースな不思議ちゃんのイメージが強かった子ですが、6話で独自色をグッと発揮していました。

大工の娘ということで、測量や設計のスキルに長けているキャラクター設定ですが、単にものを測ったり作ったりするだけでなく、人々や状況の動きをしっかり見極めるスキルも高い子だと見えました。上のキャプチャーではデラと反対の方向を見ていますが、夏に入ってから商店街への客足が落ちていることを(たまことはまた別の角度から)把握しています。人とは違った自分の視点を確立している子ですね。
また、デラとの距離感も見どころです。

鳥アレルギー(2話参照)のため、他の子たちほどデラに接触することはできませんが、ちょっと距離をおいている関係性ゆえに、日頃からデラの動向やクセを見抜いていたのでしょう。他の子たちがことごとく失敗したのとは対照的に、しっかりとデラをパシリとして使いこなしていました。しかもクラスメイトの史織をエサにしてデラを「遠隔操作」しようとするのですから大したものです。将来が恐ろしい子ですね。

「星とピエロ」のマスター

4話以降の動向です。

4話:祭りの準備をする人々を店内から眺めている。もちろん行事には不参加。マスターいわく「世界と僕とのアンビバレンツ」
5話:出番なし(たまこたちの臨海学校がメインの回だったため)
6話:ホラー映画サントラ風のレコードをかけたところ、怖がったたまことみどりから止めるようツッコミが入る

4〜5話で存在がフェードアウト、ついに消えてしまうのかと思いきや6話で復活しましたマスター。6話の挙動は、3話でのモノローグ「言葉が全て音楽ならば・・・」を受けたものになっていて(言葉ではなく)音楽を通じて女子高生たちと会話を試みているんですね(もっとも、デラ用の珈琲を用意している描写から察するに、全く言葉によるコミュニケーションができないわけではないようですが、強いてその中に入りたくはないのでしょう)。
ともあれ、物語の本筋にほとんど関わらないキャラクターがコンスタントに出てくるのは興味深いところですし、少しずつ見せる変化も見どころ、今後も要注目の人物です。

同じ構図の繰り返し

少しずつ見せる変化・・・といえば5話の演出が面白いものでした。

たまや前の女子高生(写真左がアバン、右がラスト近く)。

通りを隔てて向かいから彼女たちを見ているもち蔵とその母親(同じく写真左がアバン、右がラスト近く)。
どちらもキャラクターの立ち位置やポーズがほぼ同じ構図になっています。どうしてこのような演出をするかと言えば、その後に来る人物の言動・リアクションに差を見せたかったからだと思います。前述のサムズアップが示すように、みどりからもち蔵への警戒心が薄れたという変化、あるいはもち蔵のほうがたまこに対して何の行動にも出られないという状況の変わらなさ、でしょうか(母親の口にする「宿題」も何か暗喩めいた印象があります)。
まったく同じ構図ではありませんが、5話ではたまこがもち蔵を誘う場面が数回出てきます。そこに見える少しずつの変化も、何かしら今後の展開へのヒントになるのでしょうか(まあ、こと恋愛面での動きはあまり期待できそうにないのですけれど)。
話はそれますが、先日鑑賞した荻上直子監督『トイレット』という映画の中でも、作品前半において物言わぬ祖母が毎朝トイレに入って出てくる動作と孫たちのリアクションが何度も繰り返されていて、そこにも少しずつの変化を見せる意図があるように見えました。こういう細かい演出を見極めるには鑑賞者がかなり注意を払わなければ、単にゆるい描写にしか見えない可能性もあるのですが、かえってそういうところが興味をひく部分でもあります(荻上直子作品はアニメではなく実写映画ですが、セリフなど言葉による説明的要素や押し付けがましい感動要素を排除していて、鑑賞者がそれぞれに作品の中から何かしらを感じ取ることを期待する作風で、そこが『けいおん!』や『たまこまーけっと』に通じる匂いを感じます)。

最後に

現時点での印象では、この『たまこまーけっと』は物語というよりも、商店街周辺の人々を描いたスケッチのような作品ですね。1クールの前半部分でやっとメインキャラクターの人となりが掴めて、それぞれの場面描写から窺える作品の流れがぼんやりと見えてくるかどうか・・・といったところです。
お付きの少女が登場する7話以降に「おっ!」と思える展開があるのかもと思いつつ、ドラマチックな起伏は今後もないだろうと思います。前に書いたように「作品世界のゆるやかな心地よさ」とか、各エピソードを通じて見られるささやかな変化(それは季節の変化のようなものかも知れません)を見つけ、感じ取っていく楽しさ、そういうものを毎回ゆったりと味わいたいなあと思っています。

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*1:http://kibune.jp/jinja/story/story3.html

*2:ひょっとすると「お付き」の子が恋愛方面で割と強引に押してくるキャラかも知れませんが・・・。