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『ハーバード白熱教室』第5回を見た。

今回は「人命と金銭」に関わるトピックが2つ。

前半:兵士は金で雇えるか

南北戦争時代、北軍では徴兵による召集を嫌がる人々が、お金を払って代理人を立てることが認められていたとのこと。サンデル教授はこのシステムを「志願制と傭兵制のハイブリッド型」と表現した。さて、このハイブリッド型に問題点があるとすれば何だろうか。
第一の問題点は、社会的な格差の問題。
学生からは「このやり方だと徴兵される層に偏りが生じるのではないか」との懸念が出た。所得の高い層と低い層では、代理人を立てるための金銭に対する感覚に差が出てしまう。というか、低所得層にはそもそもお金を払うという選択肢が出てこない可能性もある。そうなると自然に徴兵されるのは低所得層ばかりという結果を生じかねない。これは不公平ではないか。
現代の志願制なら兵士に支払われる報酬は一定だから、南北戦争時代のハイブリッド型のようにやりとりされる金銭にばらつきが生じることはない。しかし、低所得層からすれば普通に働くよりも兵士になるほうが高い報酬を得られるかも知れない。一方、高所得層にとってはわざわざリスキーな選択をしなくても高額の金銭を得る方法はいくらでもある。そうなれば自ずと、金銭面で選択肢の乏しい低所得層が兵役につく確率のほうが高くなってしまい、やはり現代の志願制にも不公平の懸念はあるのではないか(このあたりはマイケル・ムーアが『華氏911』の中で指摘していたし、やはりというべきか、ハーバードの学生たちのほとんどは兵役未経験だった)。
第二の問題点は、市民の義務と市場経済の関わり方について。
ジョン・ロック的な考え方だと、市民は「同意」の上で社会を維持していく義務があるから、納税と同じように徴兵制もOKということになる。そうした「市民の義務」を市場での売り買いに委ねることがふさわしいのかどうか、という問題。
ここでは「愛国心」の話も出てきた。報酬に釣られただけの傭兵には愛国心がないから、いざというときには役にたたない、なんて話は塩野七生のエッセイにも書いてあったかな。ただ、そういう考え方はテクノロジー万能の現代では無効だし、だからこそアメリカも民間会社をイラクに派遣しているんだよね。そういうアメリカの現状においては、第二の問題点はあまり切実な問題点ではないんじゃないかと思えてしまう。

母性売り出し中

次のお題は代理母出産。実際に起きた「ベビーM訴訟」を取り上げながら、前半の第二の問題点と似た感じの「人命にかかわることを市場の売り買いに委ねてもいいのか」という問題が焦点になってくる。
たとえ他人の受精卵であっても「いちど腹を痛めて生んだ子であればそれを『我が子』として愛情を注ぎたい、それが『母性』であり人間の本能じゃないか、それを金銭のからんだ契約云々で縛るほうがおかしい」と、そういう風に考えるのも納得できるし、その一方で「一度結んだ契約を一方的に反故にするのはフェアじゃない」という意見も一理ある。難しい問題だなあ。
まあ、個人的にはほとんど縁のないトピックなので「当事者同士で納得のいくようにしたらいいんじゃね」程度の感想しか持てないのが本音だったりするんだけど、それはそうとして、リバタリアニズムに批判的なサンデル教授としては「人間社会には、お金で売り買いできない部分もあるんじゃないか」という方向に話を持っていきたいように見えた。
あと、学生の話にも出てきた同性愛者のカップルが子供をほしいというケースも問題にすべきところかも。たとえば男同士のカップルが子供を欲しくなったとき、どちらかの精子を別の女性に持ってきて出産となるわけで、そこで代理母出産の話は避けて通れないはず。代理母出産の是非とは別に、セクシャル・マイノリティがヘテロのカップルと同様に子供のいる家庭をもつ権利をどう考えるかという問題も出てくる。いろいろと考えるべき点がありそうだな。