『圏外へ』

アマゾンのリンクを張っておいて言うのもなんだが、こういう本をネットで買うのは味気ない。

圏外へ

圏外へ

書店で吉田篤弘の本をなかなか見つけられないことがある。小説コーナーの「著者名・よ」のあたりを探しても姓が「吉田」の作家は吉田修一しかなくて「ちっくしょう、置いてねえのかよ」とぼやいていると「著者名・く」のところにまとまってどさっと並んでいたりする。つまりクラフト・エヴィング商会の「ソロ活動」扱いなのね。
ちくま文庫の「内田百間」シリーズから入ったぼくは、やはりクラフト・エヴィングの小粋な装丁に惹かれた部分が多いと思うのだが、ここ3年ほどは遠ざかっていた。最近になって書店を覗くとクラフト・エヴィング系らしからぬ、えらく分厚い、しかもソフトカバーの単行本が目についてしまったわけで、即座に購入した次第である。やっぱりこういうハッとする出会いは本屋ならではものだなあ。
吉田篤弘ならびにクラフト・エヴィングは、ぼくが思うところ「馴染み客が8〜9割の小さな飲み屋」の雰囲気である。店主のおやじが1人で切り盛りしていて、カウンター周辺以外はガラガラ、知らない人が見たら「この店ちゃんと儲かってんのやろか」と心配してしまうのだろうが、店の主はそんな心配とは無縁でいつもマイペース、定休日不定で営業時間も不定、時には仕事そっちのけでカウンターの馴染み客との間でしか分からない(もしかすると本人しか分からない)マニアックな話を延々と続けていたりするのである。
まあそんな話はさておき『圏外へ』である。
現実と小説の世界をシームレスに行き来する、ゆるいメタ小説かと思いきや、途中からほとんど前触れなしに幻想的な世界に突入する。なんだか外国の翻訳小説(ガルシア・マルケスの『百年の孤独』とか?)を読んでいる気にもさせられるが、舞台は意外と日本なのかもしれない。はるか南の国から来た男女、大きな鞄の中から生まれた少年・・・うーん、これは折口信夫がいうところの「マレビト」なのかもねえ。折口信夫から連想するのは柳田国男だったりするのだが、ぼくは『海上の道』を読んでいない。小説から感じ取れるのはあくまでイメージのレベルに過ぎないのが悲しいところではあるけれど、また読んでみよう。それはともかく予期せずして豊穣な世界に巡り会えたかのような物語です(まだ読書は半分に至っていない)。